進化医学の世界より ~アルツハイマー発祥の機序~ 2025/9/7

アルツハイマー
アルツハイマー発祥の機序を探る⑵
アルツハイマー病の基本構造
アルツハイマー病(AD)は、記憶障害を中心とする神経変性疾患で、脳内に異常なタンパク質が蓄積することで神経細胞が死滅していきます。主な病理的特徴を紹介します。
○アミロイドβ(Aβ)
【細胞外に沈着し、老人斑を形成】
① 前駆体:APP(アミロイド前駆体タンパク質)は神経細胞膜に存在するタンパク質で、通常は細胞機能に関与する。APPは2つの酵素によって切断されることでAβが生成される。Aβ42は特に凝集しやすく、病理的に重要とされる。
②アルツハイマー病への関与
Aβの蓄積が神経細胞障害の引き金となり、タウタンパク質の異常、シナプス障害、最終的な神経細胞死を引き起こすとされる。特に可溶性のAβオリゴマーが神経毒性を持つとされ、老人斑(fibrillar Aβ)よりも早期病態に関与する可能性が高い。Aβは通常、ネプリライシンなどの酵素によって分解されるが、加齢により分解活性が低下し、蓄積が進む。ネプリライシンの活性低下は海馬など記憶形成に関わる部位で顕著に起こる。また、様々な原因による 酸化ストレスは、γセクレターゼの活性中心であるPS1(APPを切断してAβを発生させる酵素)の発現を増加させ、Aβ産生を促進する。Aβ自体も酸化ストレスを誘導し、悪循環を形成する。
○タウタンパク質
【細胞内で異常リン酸化され、神経原線維変化(NFT)を形成】
正常なタウの役割は、神経細胞内の微小管を安定化させるタンパク質で、細胞の構造維持や物質輸送に関与します。アルツハイマー病では、タウが過剰にリン酸化され、凝集してNFT(神経原線維変化)を形成。このNFTが神経細胞の機能を破壊し、記憶障害などの症状を引き起こします。最近の研究では、タウが「プリオン様」に隣接細胞へと伝播することが示されており、病態の進行メカニズムとして注目されています。
○APOE遺伝子
【リスクと保護の鍵】
アポリポタンパク質E(APOE)は脂質代謝に関わるタンパク質で、脳内でも重要な役割を果たします。人間には主に3つのアイソフォーム(対立遺伝子型)があり、
  APOE型 | アルツハイマー病との関係
   ε2 保護的に働く可能性あり
   ε3 中立的(最も一般的)
   ε4 発症リスクを大幅に高める
ε4型を2つ持つ人は、AD発症リスクが最大で、脳内のアミロイドβ蓄積が早期に始まる傾向があることがわかっています。
慶應義塾大学の研究では、ε3の変異型である「クライストチャーチ型」が、タウタンパクの拡散を抑える効果を持つことが示されました。(iPS細胞由来のアストロサイトを用いた実験で、APOEクライストチャーチ型が神経細胞間のタウ拡散を抑制することが確認されました)
APOE遺伝子型がタウタンパク質の隣接細胞への伝播に影響を与える可能性があることも示唆されています。
*上部の図は社会福祉法人恩賜財団済生会HPより

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