8月22日 深まる果糖の生物学(8月18日 Nature 掲載論文)
甘い炭酸ドリンクは、夏の暑いときに爽快感を与えてくれる。しかし、このようなドリンクに含まれる果糖と蔗糖の混合物high fructose corn starchは、カロリー摂取による肥満だけでなく、直接肝細胞を傷害して脂肪肝を誘導したり、あるいは大腸まで到達すると、大腸ガンの増殖を誘導するなど様々な問題があることがわかっており、シュガードリンクはcovid-19並の死者の原因になっているのではとする厳しい目が向けられている。
このような事情で、果糖の生物学は急速に進展しており、このHPでもすでに3回紹介している(https://aasj.jp/news/watch/8072 、https://aasj.jp/news/watch/9897 、https://aasj.jp/news/watch/13459 )。これらを読んでもらうと、果糖も適量だと小腸で分解されグルコーススパイクを起こさないことも紹介しており、今後、私たちが甘いものを求める欲望を果糖で実現したいとき、何を考えればいいのかよく理解できると思う。
そして、今日も果糖の知られざる一面を明らかにした論文が、コーネル大学から8月18日Natureに発表された。タイトルは「Dietary fructose improves intestinal cell survival and nutrient absorption (食物中の果糖は腸細胞の生存と栄養吸収を改善する)」だ。
タイトルを読むと、果糖の良い一面を探索したのかと思ってしまうが、実際は逆で、果糖が大腸ガンの増殖を助ける仕組みを知りたいと研究を始めている。そのため、まず果糖を食べ続けた場合、小腸はどうなるのか調べてみると、4週間摂取した場合、十二指腸から空腸まで、果糖が到達していると思われる領域の絨毛がなんと25-40%も増大する。
これほど吸収面が増大すると、当然栄養吸収も上がると予想されるが、実際、果糖とともに高脂肪食を与えると、果糖が入っていない場合と比べ体重が増加し、体脂肪も増加する。
絨毛の長さが伸びると言うことは、果糖により腸上皮の細胞増殖・細胞死バランスが変化したことを示している。そこで、細胞の増殖や、細胞死について検索すると、果糖は細胞増殖には全く関わらず、腸細胞の寿命を延ばす効果があることが明らかになった。
寿命の延びるメカニズムをさらに探索すると、もともと上皮細胞が絨毛の上部に達すると、酸素不足により細胞死メカニズムが働き細胞が上皮から排出されるのだが、この低酸素による細胞死から上皮が守られる結果、寿命が延び、絨毛が伸長することがわかった。
そして、低酸素状況下の細胞生存を調節しているのがピルビン酸キナーゼM2(PKM2)という酵素で、このモノマーはHIF1αと結合して転写活性を変化させ、低酸素ストレス状態で細胞の生存を調節する働きがある。果糖の効果が腸上皮のPKM2が存在しないマウスでは全く見られないことから、果糖がリン酸化されて生成されるF1Pが、直接PKM2に結合することで、PKM2モノマーを増やし、HIF1αによるストレス下での細胞増殖をサポートすることを発見する。
結果は以上で、基本的には一つの代謝経路が、様々な経路とリンクすることで、思いもかけない働きを示すことが理解できる研究だ。最後に、同じ経路は大腸ガンでも働いており、果糖が大腸まで達すると、ガンが低酸素ストレスを乗り切って悪性化する可能性を示している。
以上、果糖の悪い側面を強調したことになるが、HIFを介して細胞の生存を高める可能性は、場合によったら良い効果になる可能性がある。果糖の正しい使い方を明らかにすることは、栄養学の重要な課題になってきた。
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