エコチル調査開始から… 2025/11/9

Organic Food Meister
エコチル調査開始から10 年の歩み
2021年11月1日
医学書院座談会よりダイジェスト
子どもが健康に育つ環境を実現する https://share.google/R1cMtTKtVR3CmI7GG
○司会 上島通浩氏
エコチル調査運営委員会委員長/名古屋市立大学大学院医学研究科 環境労働衛生学分野 教授
○大矢 幸弘氏
エコチル調査メディカルサポートセンター長/国立成育医療研究センターアレルギーセンター長
○山崎 新氏
国立環境研究所エコチル調査コアセンター長
…………….(一部抜粋)……………
(上島)
では,開始から10年を経て得られた研究
成果の話に進みたいと思います。本調査のような大規模なコホート研究の場合,膨大なデータの解析が必要なために一つ目の研究上 明らかになったのはどのようなことでしょうか。
(山崎)
最初に解析が始まったのは,妊娠中の重金属ばく露の影響評価に関するデータです。具体的には,妊娠中の母親の血中鉛濃度が高いと出生児の体重が軽くなること6)や,血中のカドミウム濃度が高い女児のグループでは,在胎不当過小(Small for Gestational Age:SGA)の割合が増加する7)ことなどが報告されました。それ以外にも,妊娠中に防虫剤・殺虫剤を多用していると,ごく軽度にですが出生児が小さく生まれたり,生後1か月までの身長の増加が抑制気味になったりするなどの可能性が示唆されています8)。また,父親が職業上,殺虫剤や医療用の消毒剤を使用している場合,女児が生まれやすくなることも報告されており9),興味深い結果と言えます。
(上島)
これまでの成果については大矢先生も目を通されていると思いますが,気になった論文はありましたか。
(大矢)
妊娠中にリフォームを行うと,生後1歳までの子どもの喘鳴の発症頻度が増加するという論文です10)。韓国からも妊娠中に自宅のリフォームを行うと,アレルギー体質の母親から出生した児の臍帯血IgEが増えるとの報告11)があり気になっていたのですが,妊娠中の母親にストレスがかかると出生児のアトピー性皮膚炎が増えると指摘されていました12)。リフォームには予期せぬトラブルや出費が生じてしばしばストレスがかかります。出産に間に合うようリフォームしたいという家族もいらっしゃるかもしれませんが,妊娠中は安易にリフォームすべきではないのかもしれません。私の専門とするアレルギー性疾患の好発年齢である5歳頃までのデータがそろそろ解析対象となるはずですので,さらなる研究成果を待ち望んでいます。
(上島)
本調査の今後の計画,次の10年でやるべきことについての見通しを教えていただけますか。
(山崎)
コーティング剤や消火剤などに使用されるPFAS(Poly-and Perfluoroalkyl Substances)と呼ばれる有機フッ素化合物や有機リン系農薬,ピレスロイド系農薬,ネオニコチノイド系農薬,ダイオキシン類,POPs(Persistent Organic Pollutants)など,一般の方にも関心の高い化学物質によるばく露の影響を調査・分析することになるでしょう。さらには出生時の体格や先天性形態異常,アレルギー性疾患,自閉症・ADHD(Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)といった精神神経発達などとの環境因子の関連の有無が解析可能になるはずです。
また,個人の体質や疾患感受性,薬剤応答性に関する遺伝子解析も近く開始予定です。大矢先生,遺伝子解析への期待はいかがでしょう。
(大矢)
同じ化学物質のばく露を受けているにもかかわらず発現する疾患が異なるという現実があり,こうした結果に対する示唆が遺伝子解析の結果から得られるのではと考えています。 例えば喘息の場合,大気汚染の影響を受けて悪化することは以前から明らかになっています。しかし日本では,1960年代の公害問題が起きていた時代よりも明らかに大気はきれいになったにもかかわらず,喘息の被患率は増加しました13)。公害による亜硫酸ガスなどの大気汚染よりも別の化学物質の影響が大きく関与し,遺伝子と環境との相互作用で免疫学的な体質が変化したためと推測しています。同様にアトピー性皮膚炎も増えましたが,喘息と合併する人としない人がいます。それゆえ環境からの影響を受ける感受性遺伝子のバリアントを調査することで,謎を解き明かせればと期待しています。こうした解析ができるのも,10万人という調査規模の大きさのおかげでしょう。
参考文献・URL
1)Can J Public Health. 1998[PMID:9654785]
2)国立環境研究所.子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)――研究計画書(第3.13版).2021.
3)BMJ. 2014[PMID:25526900]
4)Nature. 2015[PMID:26511556]
5)BMC Public Health. 2014[PMID:24410977]
6)Int J Epidemiol. 2021[PMID:33141187]
7)Environ Res. 2020[PMID:32768474]
8)Int J Environ Res Public Health. 2020[PMID:32604899]
9)Lancet Planet Health. 2019[PMID:31868601]
10)Allergol Int. 2021[PMID:34074586]
11)Allergy Asthma Immunol Res. 2016[PMID:26540500]
12)J Allergy Clin Immunol. 2016[PMID:27016803]
13)環境再生保全機構.ぜん息などの情報館.
14)Thorax. 1997[PMID:9487341]
15)Pediatr Allergy Immunol. 2018[PMID:29698561]

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